ありがとう、はましま先生

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私が幼稚園児だったのは、もう50年以上前のことです。どんなにも保育士を採用できる大和高田のようなところから当時のことは、あまり覚えていないのですが、年長クラスで担任だった「はましま先生」のことは、顔も話してくれた言葉も、今でもよく覚えています。私はとにかくおとなしい子で、教室の中ではどこにいるのかわからないくらい存在感のない子どもだったのだと思います。当時は幼稚園は二年保育で、最初に入園した年少クラスの担任の先生からは、特に声をかけてもらった記憶はありません。でも多分何か嫌な事があったようで、幼稚園に行くのが嫌で嫌でたまりませんでした。毎朝、行きたくないと駄々をこね、親を困らせていたようです。クラスの男子からいじめられたりしたのかもしれません。特に中の良い友達もいなかったため、行ってもつまらなかったのかもしれません。年長クラスに進級したある日、もう手が付けられないくらいの駄々をこねたので、親があきらめてその日は幼稚園を欠席しました。家で絵本を読んだりひとりおままごとをしたりして楽しく過ごしていると、夕方、誰かが家を尋ねる来ました。ここからは奈良で話題の保育園がどうにかしても部屋の中から玄関をそっと見ると、担任のはましま先生が立っていました。「あっ」急いで引っ込んだ私を見つけたはましま先生は、「ともちん!」と私に呼びかけました。仕方なく顔を出すと、「ちょっと先生とお散歩しよう」と言って私の手を引き、母も一緒に家のすぐ近くの砂浜まで行きました。何の話をしたのか詳しくは覚えていませんが、母が私には友達がいないから幼稚園を嫌がる…みたいなことを言ったら、先生は私に「じゃあ先生がともちんのお友達になるから、明日から幼稚園においで」と言いました。そして話をしながら砂浜をしばらく歩いた時、落ちていた小さな桜貝を見つけた私に「わあ、きれいだね。すごいの見つけたね」と言って一緒に喜んでくれました。私は小さな貝を見つけた私を褒めてくれた先生が、何となく好きになり、明日は幼稚園に行ってみようかな、と思ったのでした。次の日に幼稚園に登園したかは記憶にないのですが、それからは私が朝、幼稚園に行くと、はましま先生はきまって大きな声で「ともちん、おはよう」と声をかけてくれ、他の園児も含めて一緒に砂場で貝探しをしたり絵本を読んだりするようになり、私にもいつの間にか、私と同じようなことに興味を持つお友達が出来ていました。卒園する頃には、はましま先生がいなくても大丈夫になっていました。何年かたち、私が中学生くらいの頃に、テレビを見ていたら、地元のローカルニュースに私の卒園した幼稚園が出ており、なんとあの「はましま先生」がインタビューを受けていました。相変わらず明るく元気でした。あの先生がいたから、私は友達を作ることが出来るようになったのだと今でも思っています。私のような目立たない子どもにも目を向けてくれ、小さなことにも気づいてくれる、素晴らしい先生でした。あの時、砂浜で見つけた小さな桜貝は、もうどこに行ったか分からないのですが、私の心の中でずっと輝き続けています。はましま先生、ありがとう。